「Geborgenheit」●4(鶴紗視点)







●4-2








「……止めて、梅様……っ!」

「もちろん。その為に来たんだからな。
 落ち着こうと焦んなくて良い、お前の中の狂気をちゃんと感じろ」

「……んな事したらもっと、酷く……!」

「いいから。梅にダメージなんか無いし安心しろ。
 今こうして梅を殺そうとしてる狂気……怒りを感じるだけで良い。
 ああ、自分は今何かに怒ってるなって。
 怒ってるんだから仕方ないって認めてやれ」


溢れ出る狂気を感じて、狂気と、怒っている事を認める?
殺戮を楽しもうと喜んでいるのではなく、怒っている、のか?

梅様の不可解な言葉を、疑う事すら無い私は
言われるまま、目を閉じて心を探ってみる。
……自分の中に今在るのは、どす黒く渦巻く狂気と
何に向けられているのか良く分からない、底が見えない膨大な怒り。
何に怒っているかは分からないけど、怒っている事はすぐに分かった。

……ああ成程、今それが溢れているのだから仕方が無いと思ったら
怖さが少し薄れて来ている気がする。


「どうしても、狂気が怖くて焦ってしまうから
 どんどん狂気が大きくなっちゃうんだ。
 それをちゃんと感じて理解してやるだけで、大抵落ち着くもんなんだぞ」


今迄梅様を攻撃し続けていた腕が鈍って、やがて止まった。
本来の私がどんどん心を宥めて、狂気が薄れていく。


「梅様、凄い……」

「ま、何かの受け売りだけどな。役に立って良かった」

「でも……梅様なら私を軽く倒せるはず……」

「鶴紗が例え一人の時でも、これなら自分で対処出来るだろ?
 一度対処出来れば怖さも薄まると思って、な」

「あ……」


梅様なりに考えてくれた結果の事だったのか。
私はこんな方法は知らなかったし教わらなかった。本当に凄い人だ。

頭を撫で続けてくれた手が、更に慈しむように私を大きく包んでくれている。
こんなに思いやりのある優しい手を
私が与えられて良いのかと恐縮し、困惑してしまう。


「……はぁ」

「なに、梅様……?」

「やっと鶴紗に逢えた。めちゃくちゃ久し振りだぁ……」


そう言って、私の頬にその頬を擦り付けて来る。
癖のある梅様の髪が触れて、擽ったくて身を捩る。
それでも尚 擦り付いて来るのを少し手でガードすると
今度はその手にも擦り付いて来る。
そんな様子はまるで


「……子供みたいだ」

「こうしてて良いなら、梅は子供で良いや」

「……してて良いから、子供にならないで」

「んー……じゃあならないから、あんまり露骨に逃げないでくれ。
 ちょっとは傷付くんだぞ?」


これはきっと嘘だ。
ちょっと、という事はちょっとじゃない。やっぱり傷付けてしまっていた。


「ごめん」

「まぁ、強引に捕まえようと思えば出来るんだけどな。
 そうした所でお前に嫌われたら困るし」

「……嫌ってないし、嫌わない」

「そっか、なら良いや。
 あー、やっぱり好きだな……可愛い、柔らかい、良い匂い……」

「セクハラ」

「ちょっとしたご褒美だろ、もーちょっと くれ」

「勝手に入って来た不法侵入者のくせに」

「うぐっ……結果オーライだ」



楽しい。嬉しい。
あなたとの会話が、温もりが、楽しそうなその姿が。
僅かに残っていた狂気などあっさりと消え失せて
私の心は安堵と幸せで満ちて行く。
なんて人だろう。
私にとってのあなたの存在が、またどんどん大きくなる。

そんな事を考えている内に今度は
狂気に抗い続けて疲労した脳と心の、緊張の糸が切れて
急激な眠気に襲われる。
体の力も抜け、膝から崩れ落ちそうになった。


「ありがと、梅様……ごめん……もう限界……」

「そうか。ベッドに運んでおいてやるから任せろ。
 良く頑張ったな、全部忘れて眠れ、鶴紗」


擦り付けられた頬と、撫でられている手。抱き締められる腕。
忘れる事なんて出来ない。今夜の事全て、忘れたくない。
ずっとこのままで居たい。あなたの傍で。


「わすれ、ない……まいさまが…………すき」



遠のく意識の中。
至近距離にあったその唇に私は……唇で触れた、気がした。
私の本当の想いは、あなたに届いただろうか。


夢の中で、ふわふわと浮かんでいるような頭と身体を
私の大好きな人の、お日様の様な香りがずっと包んでくれていた気がした。










●Fortsetzung folgt…












●●まえがきあとがき



鶴紗の「怒り」とは
それまで封じ込めていた膨大なストレスと
ゲヘナに対する諸々の黒い想い、みたいなものが
溢れ出て来る、そんな感じでしょうか。

特にゲヘナに対する気持ちを
もしも私が書くとすれば
相当な捏造を含んで、身勝手な解釈を書いてしまうと思うので
「怒り」という漠然とした感情を利用しました。

少女達に対して、本人の了承・拒否に関わらず
無茶な実験を繰り返している機関ですから
とても口には出せないような非道が行われているんだろうな
とは思いますけど……
鶴紗自身の口から表現されない限り
私なんぞが捏造して良い苦しみでは無いと思うので
その辺をすっ飛ばして軽めに書いておきました。


アンガーマネジメントみたいなもんですかね(ちょっと違うけど)
感情を否定する事無く、それを感じている自分を認める。
この場合の鶴紗の様に、自分の意思でどうにもならない事なら
否定すればする程、それは大きくなりがちなので
今そうなのだから仕方ない、と認めてやる事で
一旦落ち着かせる、という方法を取らせてみました。


こういう、「自分を助ける方法」なんて
ゲヘナが教えてくれる訳が無いので
自分の事を本気で考えて守ってくれようとする梅に
惹かれていくのは当然じゃないでしょうか。



ま、なんか原理とかメンドクサイので
分かり難い辺りは適当に流して読んで下さい_(:D」┌)⁼³₌₃



梅は、この状況でも
「嫌われている」だろう、と思っている
大好きな鶴紗にようやく逢えて本当に嬉しそうにしてます。
猫かわいがり状態、でしょうね。
思いっきり可愛い梅を想像してあげて下さい。



次でラスト。毎度の展開になります(笑)
では。







●●
●拍手お礼●

9/15

1拍手頂きました。
ってか今見たら付いてました、ビックリしました
嬉しいです、ありがとうございます(*゚Д゚)ノシ






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