「Geborgenheit」●3(鶴紗視点)
・
●4
今迄も、この体のせいで身体的に辛い時もあり
精神的に不安定になる事も多々あったけれど
今日はそれが相当に酷い。
眩暈を伴う頭痛と、感情の不安定さのお陰で
些細な事で何かが暴発してしまいそうだ。
おまけに今日は朔の夜。
私を慰めてくれるものが何一つない真っ暗な部屋の隅で一人
しゃがみ込んで、自分の肩を抱いて身体を壁に押さえ付けていた。
こんな姿を誰にも見られたく無くて、早々に入口に鍵を掛けた。
夜が早く過ぎてしまえ、せめて闇の晴れる朝まで持ってくれ。
それだけをずっと願っていた、というのに。
「鶴紗?」
ガタンと音がした方に視線だけ向けると
鍵を掛け忘れていた窓から見知った姿があった。
いや、見知っていたとして窓から来るのはどうかと思うけれど。
外開きの窓を開け、難なくスルリと部屋に侵入して来たその人は
こんな端っこにいる私をも難なく見付けて
「大丈夫か?やっぱりおかしな気配出してるな」
気配に気付いて、私を容易く見付けたのか。
相変わらずな人だ。だけど。
「帰れ」
「お?」
「今夜の私は本当に危ない」
「……そうみたいだな」
多分……私が不安定になり易いという事も知っていそうだ。
色々と知られているというのが有り難いのか迷惑なのか。
「……あ」
「え?」
……こういう些細なきっかけで
自分がどんな状態になるか分からないというのに
窓から誰かが入って来るという予想外の出来事に加え
それが梅様だったという事もあって
驚きで、心の中がザワザワする感じが大きくなって来た。
想像以上にマズい予感がして、自分自身に慄く……
意識が急に遠のきそうになり、理性(わたし)を易々と押しのけて
狂気が、心に満ちていく……殺戮を好む、別人格の様に。
「早く、離れろ……」
「いや、梅はお前を」
そう言って、私に近付こうとした梅様を認識した途端。
頭の中の理性の糸が切れたような音がした。
私は無意識に、傍に置いていたティルフィングを手に取り
切っ先を梅様の喉元あと数センチという場所に突き付けていた。
「はぁ……はぁ……どけっ!」
辛うじて残っていた理性はそれを止めようと
無意識下の狂気はそれを喜々として貫こうとしている。
身体が言う事を聞かず、自分の意思で止める事が困難だ。
早く逃げて欲しいのに、思う事が上手く言葉にならない。
どうしたら止められるのか焦って混乱している私に
「……なんだ。そんな躊躇しないで貫けば
血がドバーっと出て終わるだけなのに」
「……なっ!?」
微笑んで、細目で愛おしそうに私を見る梅様は
その切っ先に躊躇なく手を当てて握り、更に喉元に付けた。
「それが今、お前が本当にしたい事ならそれで良い。
その代わり、梅の夢はお前に託すから頼むぞ?」
「ゆ、め……」
梅様の夢は多分……梅様の故郷と弟の事。
そんな大切な事を託されても、こんな私では何もしてあげられない。
荒ぶり出す狂気が、それを遂行しようとするのを
残り僅かな理性が必死に止めて、互いが拮抗していた。
「ホントのお前は、梅をどうしたい?
梅はお前の願いを叶えてやりたい、それだけだ。
ま、お前と違って梅は痛いのが好きじゃないけどな」
馬鹿言うな、私だって痛みが好きな訳じゃ無い。
切っ先を力強く握る梅様の手から血が滲み始める。
何故逃げないんだ、あなたなら軽く逃げられるハズだし
若しくは私を気絶させる事も容易なはずだろう。
私の理性と、本能の様な顔をしたニセモノの凶暴さが
せめぎ合っている結果、ティルフィングがガタガタと震え出す。
この身体を渾身の力で留め続けるだけで精一杯だ。
それでも、あなたに言葉を……絞り出せ!
「私は、こんな事したく、ない……っ」
「良かった。鶴紗はやっぱり優しいな」
「もうやだ……梅様、逃げ……」
「大丈夫だ。お前のマギ、ココに全然入って無いからな」
梅様はにっこり笑うと、私の手からティルフィングを叩き落し
あっという間に私との間合いを詰めて……抱き締められた。
優しい腕に安堵する気持ちとは別に
狂気が支配する身体は梅様を押し退けようと必死にもがく。
この至近距離でどんな攻撃をしようと
梅様に大したダメージが無いだろう事は分かるけれど
私が梅様を、些細だとしても傷付けているという事実は変わらない。
更に私の心は辛く、しんどくなって行く。
涙が止めどなく溢れて来て、ボロボロと頬を伝い
梅様の服の肩口に染み込んでいく。
「……毎回こんなに辛いのか?」
「……今回は、かなり酷い……」
いつも、独りで何とかやり過ごして来た。
「そういう時は梅を呼べ。頼ってくれ」
「……無理、だ」
「頼りないかもしれないけど
お前を守りたい気持ちは誰にも負けないからな」
……誰もそんな事は言わない。あなただけだ。
ニコニコしながら、怪我していない方の手で私の後頭部を支えつつ撫でて
怪我している方の手は握って掌を返し、手の甲で私の腰を抱き寄せている。
血が付かないようにとの配慮なんだろう……そんなの全然構わないのに。
器用な人だと感心したけれど、今はそれ所じゃない。
梅様に抗って攻撃し続けるこの身体を一刻も早く止めたい……!
●Fortsetzung folgt…
●●あとがき
ナンバリングがおかしいですけど
元々付けていたナンバーなので、表題の数字も間違ってございません。
次は、この4を分割した『4』をお届けします(余計に混乱)
ここでようやく
鶴紗の例のプロフ説明である
『多重にかけられたマギ感応強化の副作用で精神が不安定に陥ることが多い』
を、私なりの解釈で書いてみた部分となります。
こういう感じでは無いと思いますけど
多分、そんな状態になった時には、鶴紗は一人で処理しそうなので
もしもこうして、その時に目の前に誰かが居たとしたら。
「錯乱して襲い掛かる」というふうにしてみました。
あと、梅の運動神経の異常さ(笑)を
『外開きの窓を開け、難なくスルリと部屋に侵入して来た』
であっさり表現してます。
外開きをどうやって外から開けたのか?
開けた所でどうやってスルリと入室出来るのか?
どういう理屈で入って来られたのか妄想してやって下さい。
妙な部分で今回は切っておりますが
私はダークエンドではなく「ハッピーエンド」しか描きません故
痛い方向には行きませんので安心して読んで下さい(でっかいネタバレ)
それでは。
あ。
●拍手お礼●
9/11
1拍手頂きました。
久々に頂けて嬉しかったです……本当にありがとうございます(* ´ー`)
・
●4
今迄も、この体のせいで身体的に辛い時もあり
精神的に不安定になる事も多々あったけれど
今日はそれが相当に酷い。
眩暈を伴う頭痛と、感情の不安定さのお陰で
些細な事で何かが暴発してしまいそうだ。
おまけに今日は朔の夜。
私を慰めてくれるものが何一つない真っ暗な部屋の隅で一人
しゃがみ込んで、自分の肩を抱いて身体を壁に押さえ付けていた。
こんな姿を誰にも見られたく無くて、早々に入口に鍵を掛けた。
夜が早く過ぎてしまえ、せめて闇の晴れる朝まで持ってくれ。
それだけをずっと願っていた、というのに。
「鶴紗?」
ガタンと音がした方に視線だけ向けると
鍵を掛け忘れていた窓から見知った姿があった。
いや、見知っていたとして窓から来るのはどうかと思うけれど。
外開きの窓を開け、難なくスルリと部屋に侵入して来たその人は
こんな端っこにいる私をも難なく見付けて
「大丈夫か?やっぱりおかしな気配出してるな」
気配に気付いて、私を容易く見付けたのか。
相変わらずな人だ。だけど。
「帰れ」
「お?」
「今夜の私は本当に危ない」
「……そうみたいだな」
多分……私が不安定になり易いという事も知っていそうだ。
色々と知られているというのが有り難いのか迷惑なのか。
「……あ」
「え?」
……こういう些細なきっかけで
自分がどんな状態になるか分からないというのに
窓から誰かが入って来るという予想外の出来事に加え
それが梅様だったという事もあって
驚きで、心の中がザワザワする感じが大きくなって来た。
想像以上にマズい予感がして、自分自身に慄く……
意識が急に遠のきそうになり、理性(わたし)を易々と押しのけて
狂気が、心に満ちていく……殺戮を好む、別人格の様に。
「早く、離れろ……」
「いや、梅はお前を」
そう言って、私に近付こうとした梅様を認識した途端。
頭の中の理性の糸が切れたような音がした。
私は無意識に、傍に置いていたティルフィングを手に取り
切っ先を梅様の喉元あと数センチという場所に突き付けていた。
「はぁ……はぁ……どけっ!」
辛うじて残っていた理性はそれを止めようと
無意識下の狂気はそれを喜々として貫こうとしている。
身体が言う事を聞かず、自分の意思で止める事が困難だ。
早く逃げて欲しいのに、思う事が上手く言葉にならない。
どうしたら止められるのか焦って混乱している私に
「……なんだ。そんな躊躇しないで貫けば
血がドバーっと出て終わるだけなのに」
「……なっ!?」
微笑んで、細目で愛おしそうに私を見る梅様は
その切っ先に躊躇なく手を当てて握り、更に喉元に付けた。
「それが今、お前が本当にしたい事ならそれで良い。
その代わり、梅の夢はお前に託すから頼むぞ?」
「ゆ、め……」
梅様の夢は多分……梅様の故郷と弟の事。
そんな大切な事を託されても、こんな私では何もしてあげられない。
荒ぶり出す狂気が、それを遂行しようとするのを
残り僅かな理性が必死に止めて、互いが拮抗していた。
「ホントのお前は、梅をどうしたい?
梅はお前の願いを叶えてやりたい、それだけだ。
ま、お前と違って梅は痛いのが好きじゃないけどな」
馬鹿言うな、私だって痛みが好きな訳じゃ無い。
切っ先を力強く握る梅様の手から血が滲み始める。
何故逃げないんだ、あなたなら軽く逃げられるハズだし
若しくは私を気絶させる事も容易なはずだろう。
私の理性と、本能の様な顔をしたニセモノの凶暴さが
せめぎ合っている結果、ティルフィングがガタガタと震え出す。
この身体を渾身の力で留め続けるだけで精一杯だ。
それでも、あなたに言葉を……絞り出せ!
「私は、こんな事したく、ない……っ」
「良かった。鶴紗はやっぱり優しいな」
「もうやだ……梅様、逃げ……」
「大丈夫だ。お前のマギ、ココに全然入って無いからな」
梅様はにっこり笑うと、私の手からティルフィングを叩き落し
あっという間に私との間合いを詰めて……抱き締められた。
優しい腕に安堵する気持ちとは別に
狂気が支配する身体は梅様を押し退けようと必死にもがく。
この至近距離でどんな攻撃をしようと
梅様に大したダメージが無いだろう事は分かるけれど
私が梅様を、些細だとしても傷付けているという事実は変わらない。
更に私の心は辛く、しんどくなって行く。
涙が止めどなく溢れて来て、ボロボロと頬を伝い
梅様の服の肩口に染み込んでいく。
「……毎回こんなに辛いのか?」
「……今回は、かなり酷い……」
いつも、独りで何とかやり過ごして来た。
「そういう時は梅を呼べ。頼ってくれ」
「……無理、だ」
「頼りないかもしれないけど
お前を守りたい気持ちは誰にも負けないからな」
……誰もそんな事は言わない。あなただけだ。
ニコニコしながら、怪我していない方の手で私の後頭部を支えつつ撫でて
怪我している方の手は握って掌を返し、手の甲で私の腰を抱き寄せている。
血が付かないようにとの配慮なんだろう……そんなの全然構わないのに。
器用な人だと感心したけれど、今はそれ所じゃない。
梅様に抗って攻撃し続けるこの身体を一刻も早く止めたい……!
●Fortsetzung folgt…
●●あとがき
ナンバリングがおかしいですけど
元々付けていたナンバーなので、表題の数字も間違ってございません。
次は、この4を分割した『4』をお届けします(余計に混乱)
ここでようやく
鶴紗の例のプロフ説明である
『多重にかけられたマギ感応強化の副作用で精神が不安定に陥ることが多い』
を、私なりの解釈で書いてみた部分となります。
こういう感じでは無いと思いますけど
多分、そんな状態になった時には、鶴紗は一人で処理しそうなので
もしもこうして、その時に目の前に誰かが居たとしたら。
「錯乱して襲い掛かる」というふうにしてみました。
あと、梅の運動神経の異常さ(笑)を
『外開きの窓を開け、難なくスルリと部屋に侵入して来た』
であっさり表現してます。
外開きをどうやって外から開けたのか?
開けた所でどうやってスルリと入室出来るのか?
どういう理屈で入って来られたのか妄想してやって下さい。
妙な部分で今回は切っておりますが
私はダークエンドではなく「ハッピーエンド」しか描きません故
痛い方向には行きませんので安心して読んで下さい(でっかいネタバレ)
それでは。
あ。
●拍手お礼●
9/11
1拍手頂きました。
久々に頂けて嬉しかったです……本当にありがとうございます(* ´ー`)
・
この記事へのコメント